やりたいことを探し続けているうちに、僕は入社3年目を迎えていた。
ずっと探していて、考えているし、行動もしているのに、やりたいことは見つからなかった。
それとは反比例して、仕事はどんどん任されるようになっていった。
業務にも慣れてきて、次第にミス連発のダメ社員ではなくなっていたけど、その分、業務量が増えるのは皮肉でしかない。
日に日に仕事に忙殺されていき、ピーク時には、日付が変わる頃に帰る生活に。
そして、休みの日にも、会社に行って、平日では終わらなかった仕事をするようになった。
今の状況から抜け出したいと思えば思うほど、抜け出せないどころか、もっと深くはまっていく。
そんな蟻地獄のような現実に絶望し、心底疲れてしまった僕は、もう無理だと思った。
「自分には、やりたいことなんてないんだ」
そう思い込んで、諦めようとしたときに、突然転機がやってきた。
それがコーチングとの出会いだった。
仲間と動いていた留学関連のビジネスで、色々と調べていた時に、「コーチング」というものがあるということを知った。
「自己実現を促す対話」みたいなことが書かれていたけど、実態は何なのかよくわからなかった。
でも、なぜか惹かれて、もっと知りたいと思っている自分がいた。
そこで、どうしたらもっと知れるかを考えていた時に、ふと思い出した。
ネットで見つけた勉強会に、たまたま参加したときのこと。
その勉強会で知り合った、気さくなおじさまが、コーチングを仕事にしていると言っていたのだ。
僕は急いでそのおじさまに連絡をとり、飲みに連れて行ってもらい、コーチングの話を聴いた。
そして、コーチングが何なのかを聞いていると、おすすめのワークショップまで紹介してもらった。
このワークショップで、僕は人生が変わるような体験をすることになる。
ワークショップを紹介されたけど、正直、行くかどうか迷っていた。
というのも、3日で約10万円だったし、コーチングでググると「宗教」と出てくる。
「本当に宗教だったらどうしよう。。」
そんな心配もあって悩んだけど、最終的には受けることにした。
期待外れの内容であっても、人事として無駄にはならないスキルだと思えたのも理由の1つ。
でも、もっと大きかったのは、会社から臨時のミニボーナスが出たこと。
そもそもミニボーナスなんて、普通はありえない。
だから出ることさえ奇跡的なのに、しかも、金額は、ほぼぴったり約10万円。
僕は、何かこのワークショップを受けるように、後押しをされているように感じた。
ビクビクしながら、いざ参加してみると、3日間のワークショップは最高だった。
たった3日間なのに、初対面の人たちと心がつながったことも感動したし、コーチングのすばらしさも感じることができた。
でも、何よりも、一番驚いたのは、自分のやりたいことがわかったことだった。
それまで約3年わからずに悩んできたのに、たった3日でわかってしまった。
僕のやりたいこと。
それは「途上国で働く」ということだった。
そして、どうすれば実現できるかを考えた時、青年海外協力隊という選択肢があることを、たまたま当時付き合っていた妻に教えてもらった。
自分の中にはっきりとした確信が持てたので、ワークショップの次の日には、実家に帰って母に会社を辞めることを伝えた。
それから、本当に会社を辞めて、青年海外協力隊になった僕は、エベレストで有名なネパールという国に向かった。
大企業の人事というエリート会社員から一転して、電気なし・水なし・ガスなしのアジア最貧国で、2年間ボランティアをすることになった。
やりたいことをやれる喜びで、いっぱいだった僕を待ち受けていたのは、想像もしなかった挫折だった。